日本人の国際オンチ

ラオス高速鉄道、採算性に疑問符:日本政府、タイに関心[公益]
http://news.nna.jp/free/news/20110714icn001A.html

こんなに的を外した、こんなに国際情勢に疎い事を書く日本人を見ると、正直頭痛がする。

中国(北京)は周辺諸国への影響力を拡大したいので鉄道導入にもの凄く熱心だ。 中国国内のみならず、隣接する国への投資も厭わない。 だけど鉄道導入された周辺諸国の方は、中国(北京)の政治影響力拡大は必死で、それを決して望ましいとは思って居ない。北京式近代化の恐ろしさを、中国近隣の人はよく知っている。

北京式近代化は、そこにある文化の全否定だ。北京式開発は、開発地域周辺の半径4〜5km内をブルドーザー
で全て破壊し、そこに新しく街を建築する。 そこには街の人々が何百年にも渡って作ってきた街並み・文化・歴史があるにも関わらず、それを全て「近代化」の名の元に破壊してしまう。後には草の生一本生えない。そこにコンクリートで出来た高層ビルを無数に建てる。公園も作るのだが、全部破壊した上に古き良き北京風な街並みを再現したりするところが妙に白々しい。確かに地元の住民も、膨大なお金を投資して商業を発展させてくれる事については有難く思っているだろうが、他人の文化に全く配慮を示せない「空気が読めない」北京人の傲慢さを内心苦々しい思いで見ている。

タイも同じ事を考えている筈だ。鉄道による政治影響力増大はタイとしては好ましくない。だけどお金は欲しい。だからタイは欲しい欲しいといって小さな資金援助は受けとるが、その根幹である鉄道の導入は絶対に実施しない。特に中国〜ノンカイ間に鉄道導入すると中国からの外貨が一気にノンカイに押し寄せて経済力がバンコクをしのいでしまう。そうなるとノンカイはタイではなくなってしまう。当然タクシンもそこに介入。バンコクは、隠然とノンカイを統治したいので鉄道の導入は絶対に許さない。その見地から見ると、上述のニュース記事は恐ろしく的外れだ。

※ ノンカイ県は、タイ〜ラオス国境のタイ側に位置する。ラオス側は首都ビエンチャン。 ノンカイは、交易で栄えており、経済規模が大きい。バンコクの影響力は相対的に低く、タイ国内であっても公用語のタイ語を話す人は極めて稀で、華僑を含めたほとんどの住民がラオス語を利用する。

採算が取れる取れないということが書いてあるが、中国(北京)は採算など最初から度外視している。 中国は潤沢な資金を持っているので、赤字だろうが何だろうが、相手がいいよといえば、中国(北京)はやるだろう。こうやって中国周辺諸国の北京を中心とした権力集中構造を維持するのだ。

実際北京はやる気満々だ。ボーテン(中国ラオス国境)まで、ピカピカのアスファルトを引いた高速道路が来ているのだが、ラオス側は全く未着手の状態だ。ボーテン国境は、徒歩で渡ることが出来るのだが、この国境を渡るのはとても興味深い経験だ。 国境の緩衝地帯は短く、歩いて2〜3分の距離だ。だが、この2〜3分の距離を越えると、正に別世界の様なのだ。 例えるならば「北海道の大草原」と「横浜みなとみらい」を「どこでもドア」でつなげたような落差がある。若干大げさかも知れないが、要は落差が大きいということがいいたいのだ。 これは、中国からのラオス国内開発圧力に対する、何かしらの抵抗勢力が存在する事を示唆している。 決して採算が取れないから、などという理由ではない。

ラオスは元々、タイの影響が大きい。形式上は共産化して共産主義の政府が国を司っている事になっているが、実質政府は何も機能していない。ラオス政府のプロパガンダ機関は、ほとんど何も機能しておらず、面白くも何ともないラオスのテレビ番組を見る奇特なラオス人など居ない。ラオス国内の住民は、全員タイのテレビ放送に釘付けになっている。タイのテレビ番組は、ラオス国内であればくまなく電波が届いており、どこでも見ることが出来る。 ラオ国内でタイ語を話すことは法律で禁止されているが、実際に守られていない。 タイは、魅力的なタイのテレビ番組を使って、ラオスの政府を飛び越して、ラオスの国民を統治している感がある。

中国のタイへの影響力拡大を、ラオスの存在を口実として使って、防いでいる感がある。

タイは、元々有能で経営能力に長けた潮州系の移民を幅広く受け入れる事で国内の発展を促してきたが、一方潮州系移民に対する「手綱」は手放していない。 潮州系移民は隠然とタイ民族に操られている状態が続いている。 もしここで、中国からマレーシアまでの高速鉄道が開通するような事態になると、中国からの資金がタイ国内に流れ、タイ同様潮州系移民が多いマレーシアとリンクする事になる。 これで潮州系移民は勢いをつけ、タイ民族は、この隠然とした潮州系移民への統治を維持しきれなくなるだろう。 タイ政府は、中国の経済力台頭を理解しており、中国を感情的に刺激する様な事は割けたいので、中国の鉄道導入の話を無下に断るようなことはしないだろう。 しかし上述の様にそれを好ましくも思っていない。 だから「それはよいアイデアだ!是非やりましょう!」といいつつ、タイは絶対に中国の提案に乗らない。

実は数年前、ラオスで軍事クーデターの危機があった。 ベトナム戦争後、ラオスから難民としてアメリカに逃れてきた傭兵のモン族が、アメリカ国内で武器を調達しタイ経由でラオスに入国、ラオスで民主化クーデターを起こそうとしたことがあった。 このクーデターはタイ側の通報で阻止された。 もし本当にタイが民主主義を愛する民衆の見方であれば、黙殺しただろうが、そんなことはありえない。 もしもラオスで民主主義政府が出来る様なことがあれば、新しい政府は今の様にタイの言うことを聞かない政府になってしまうかもしれず、タイはアメリカにこの顛末を通報し、アメリカ国内で首長は逮捕された。

この理由も、中国の提案をタイが拒否する構造と同様だろう。

しかし、記者はタイ人に直接インタビューしてこういう記事を書いたのだろうか。恐らく「タイ語が堪能な」日本人インタビュワーを連れて通産相に会いに行ったのだろうが。 いくらタイ語が堪能だろうと、タイ人が言っている事を額面どおりに本気に取るというのは、世界的に稀に見るマヌケのやることである。 その点、イギリス人は、タイ人の性質というものをよく知っている。 もっともタイ人もイギリス人の扱いにはなれているが。 そんななか、何も知らない日本人。

何故、日本は、何故こんな市井の日曜言語研究者の僕ですら知っている事すら知らないのだろうか。

てかね。昆明〜チェンマイ、昆明〜ウドンの国際航空便を廃止するタイの政府が、好き好んでわざわざ昆明〜ノンカイに高速鉄道を導入したりするかって。 絶対にありえないよ。 この国際便が廃止されて大損害を被っているウドン人もチェンマイ人も激怒しているけど、バンコク人は黙殺している。

それ自体の如何はどちらでもいい。だが部外者の日本人まで騙されることないだろ。

※ チェンマイ=タイ北部・商業が盛んでノンカイ同様にラオスと国境を接する。
※ ウドン= ウドンタニー。タイ国東北深部に位置する大きな街。 ノンカイの隣で空港がある街。